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横浜地方裁判所 昭和34年(ワ)476号 判決

横浜信用金庫

事実

原告横浜信用金庫は、被告蕨トリに対し、昭和二十九年十二月一日金百万円を返済期昭和三十年十二月三十一日利息一カ月一分二厘の約で貸与し、その担保として、被告所有の本件建物に抵当権を設定せしめるとともに、右借受金を期日に返済しないときは、その代物弁済として、右建物の所有権を原告に移転すべき旨の一方の予約をなし、且つその旨の所有権取得請求権保全の仮登記を経由した。しかるに被告は、その返済期を過ぎても右借受金を返済しなかつたので、原告は、前記代物弁済の予約に基き、昭和三十二年八月二十日被告に対し、口頭で代物弁済完結の意思表示をなした。仮りに右の日にその意思表示をしたことが認められないとしても、昭和三十三年六月四日本件訴状の送達をもつて被告に対し右の意思表示をなしたから、原告は被告に対し、前記仮登記の本登記手続をなすべきことを求める、と主張した。

被告蕨トリは、仮りに被告が原告に対しその主張のような代物弁済の予約をなしたとしても、原告はこれが代物弁済を完結する権利を既に放棄したものである。すなわち、原告は右代物弁済の予約と同時に設定を受けた抵当権に基き、原告主張の建物につき一旦競売の申立をなし、自らその競落人となりながら代価支払の手続をなさず、右申立を取り下げたものであるから、原告の主張は失当である、と抗争した。

理由

被告はその主張の事由により、原告が右予約上の完結権を放棄した旨主張するが、その主張するような事情があつたとしても、競売完結前競売の申立は取り下げられ、抵当権による債権の満足は得られなかつたものであるから、これにより直ちに原告が代物弁済を受ける機会を失ういわれはなく、従つて、原告が右予約上の完結権を放棄したものとするのは早計であり、被告の主張は採用し難い。

しかして、原告が昭和三十二年八月二十日代物弁済予約完結の意思表示をなしたことはこれを認むべき証拠がないが、右意思表示を記載した本件訴状が昭和三十三年六月四日被告に送達されたことは記録上明らかであるから、被告は原告に対し前記仮登記の本登記手続をなす義務があり、原告の請求は理由があるというべきであるとして、これを認容した。

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